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建彦木工

タテヒコモッコウ建彦木工使い手に優しく、
美しい佇まいの
木の道具&家具

「可愛いものじゃなく、格好良いものを作りたくて」。建彦木工は、栃木県足利市で130年以上続く昭栄家具センターから生まれたプロダクトブランド。建具や公共家具、什器など幅広く手掛けてきた木工技術で生まれる暮らしの道具や家具は、作り手の言葉が表すように「格好良く」、それでいて使い手に寄り添うような優しさを併せ持つ。

STORY

使い続けるほどに、木に宿る美しさが増していく

潔い、というのか。それとも凛としているというほうが、しっくりくるだろうか。静寂で豊かな森の気配を漂わせ、木ならではの温もりをたたえつつも、スッとしたラインや目を凝らすと見えてくる細かな造作の一つひとつが、どこか意思のある、ブレることのない輪郭を描き出すような。建彦木工の製品はそんな格好良さを秘めている。

tatehikoの製品

それはリヤカーからはじまった

その日、まず向かったのは栃木県足利市の市街地にある「gallery&shop tatehiko」。店内には木製のお弁当箱や皿、裁縫セットといった生活道具をはじめ、無垢材でつくられたテーブルや椅子、造付のキッチンなど、小さなものから大きなものまでがスタイリッシュに並ぶ。

gallery&shop tatehiko
gallery&shop tatehiko

建彦木工(tatehiko)は、明治25(1892)年の創業より続く昭栄家具センターから生まれたプロダクトブランド。「もともとは夫の曽祖父である彦太郎さんが『建彦』という名の建具屋さんを始めたのが最初です。当時はリヤカーを引きながら町を歩いて、たとえば、どこかの家の門扉が壊れていたら、それをリヤカーにのせて運んできて、修理して、また納めるっていうことをやっていたみたいです」。そう話すのは建彦木工を立ち上げた和木佐恵子さんだ。

木工職人である4代目の清水良彦さんと、デザインから広報、営業までこなす妻の和木佐恵子さん。
木工職人である4代目の清水良彦さんと、デザインから広報、営業までこなす妻の和木佐恵子さん。

1世紀を優に超える年月の流れのなかで、建彦から昭栄木工、昭栄家具センターへと名を変えながら、一般家庭の建具をはじめ地元小学校の机や椅子、市役所などで使う公共家具、店舗什器や造作家具(戦時中は飛行機の尾翼まで)など、それはもう幅広く手がけていた。和木さんの夫であり4代目の清水良彦さんは、一度は建築会社に就職したものの「建物の一部だけじゃなく、一から十まですべてを自分で手がけたい」と地元に戻り、家業を継いだ。

戦後、株式会社になったときに作った記念品の風呂敷。
戦後、株式会社になったときに作った記念品の風呂敷。

それからおよそ20年。下請けの仕事で多忙を極めていたけれど、二人の心にいつも浮かんでいたのは「自分たちのブランドで、自分たちの思いを込めたものを作りたい」。こうして建彦木工のものづくりは少しずつはじまった。

「これ作って」から生まれる暮らしの道具

建彦木工のプロダクトにはお弁当箱やアニバーサリーボックスなど、小さな箱ものが多い。

「そもそも家具屋として箪笥や引き出し、造作家具など、収納できる箱ものをメインに作っていたんですよね。じゃあ、収納できるもので一番ミニマムな単位ってなんだろう?って考えたときに“箱”だ!と。私自身、箱好きだし、暮らしに気軽に木の道具を取り入れたかったので『これ作って』ってデザインを渡して……」

一見、無謀な要求に見えるかもしれないが、和木さんは知っていた。大きな家具を組み立てるときに使用する細かい部品までも自社で手がけていることを。だからこそ「この技術があればできるじゃん、って(笑)」

木材を組む技術を利用した「組む箱」。木の種類やサイズ違いを自分好みに組み合わせて楽しむことができる。
木材を組む技術を利用した「組む箱」。木の種類やサイズ違いを自分好みに組み合わせて楽しむことができる。

和木さんの「これ作って」に答えるのは夫の清水さんである。「あと2ミリ削ってもっと薄く」などといった高度な注文もザラで、「妻の要求は細かくて厳しい……(笑)」なんて言いながらも、生粋の職人である清水さんは極限まで挑戦し、理想のカタチを作り出す。樹種によって個性は違うし、木は気温や湿度の影響を受けて動くものである。そんな木の性質を見極め、「木そのものが生き生きとするように、使い続けていくほどに、木に宿る美しさが増すことをイメージしながら」(清水さん)加工していく。

求めたのは日本的なラインの美しさ。「可愛いものじゃなくて、どこか凛とした格好良いものを作りたくて」(和木さん)

木の質感を活かす、呼吸を止めない

手触りにもこだわった。「手に持ったときの感触はもちろん、たとえば丸い箱の“マカロン”でいうなら、蓋が茶筒のようにピタッと収まるときの感覚をものすごく大事にしています」

マカロン
旋盤の削る技術を応用した小さな丸い箱「マカロン」(右・中)や「アニバーサリーボックス」(左)。
一つ一つ「木目を意識しながら」最終調整するという。
一つ一つ「木目を意識しながら」最終調整するという。

どれどれ……そんな和木さんの言葉に誘われて、実際に蓋を開け、閉めてみた。あぁ。蓋を閉めるときスッと入って、ピタッとはまる感触がなんとも気持ちいい。それは笑ってしまうほどに。「木は伸び縮みするので、実はこの調節はとても難しいんです」。旋盤で削り出すものの、最終調整は職人が一つひとつ手作業で行っているというから恐れ入る。

また無垢の山桜をくり抜いて作られたお弁当箱。これは「男子が持っていても格好いいお弁当箱が欲しい」と、当時中学生だった息子からの「これ作って」から生まれたものである。

ガラス塗料を使用することで木の良さを生かしつつ、匂いを抑えることに成功。
ガラス塗料を使用することで木の良さを生かしつつ、匂いを抑えることに成功。
底部分につけたガイドにより、スタッキングも可能だ。
底部分につけたガイドにより、スタッキングも可能だ。

見た目やサイズ感はもちろん、匂いに敏感な息子が安心して使えるように、そしてお弁当を作る和木さんにとって使い勝手が良いようにと試行錯誤を重ねた。完成までにおよそ2年。幾多の条件をクリアするなかで、大切に考慮したのは「木の呼吸を止めないこと」だった。「木そのものを活かしたこのお弁当箱はガシガシ洗っても平気だし、木の調湿作用によって余分な水分を吸ってくれるからご飯がべちゃっとしない。時間が経っても美味しさをキープできるんです」

「それにね……」と和木さん。「私、あんまり料理が得意じゃないんですけど、このお弁当箱に入れるとちょっと美味しそうに見えるっていう良さもあったりして(笑)」

栃木の森の木で作る美しき家具たち

建彦木工は家具づくりにも着手した。下写真の「BRACEシリーズ」はその一つ。小さな生活道具と同じく、凛とした格好良さのある組み立て式の家具である。

△BRACEシリーズのサイドテーブル。デザインはミラノ在住のデザイナー・竹田克哉さん。
△BRACEシリーズのサイドテーブル。デザインはミラノ在住のデザイナー・竹田克哉さん。
こちらはBRACEのシェルフ。
こちらはBRACEのシェルフ。

素材には栃木県産の檜を活用。それも「限りある資源を丁寧に使いたいから」と普段ならチップになるような2m以下の木材をチョイスした。見た目はシンプルで繊細なれど、家具屋として培ってきた木工技術に加え、接合部分には“仕口”という建築技法を採用することで強度を高めるなど、随所に技が生きている。実はこれ、イタリアで開催されるミラノサローネ国際家具見本市に出品され、すでに高い評価を受けている。

スツール
スツール

こちらは、地元・足利市で育成した楢材を使用したスツール。デザイナーの高松周史さんとの対話の積み重ねから生まれたものだとか。座りやすさや強度、椅子としての機能性など細部に至るまですべてを話し合いながら「みんなで作り上げた一脚」。ちなみに座面もまた建彦木工の職人が一つひとつ丁寧に編み込んでいるというのだから……。

かけがえのないもの

日本だけでなく、海外をも視野に入れた建彦木工のものづくり。とはいえ、今もなお地域密着型であることは変わらない。

絵本をモチーフにしたウサギの椅子

町の中心地にGallery&shopを構えているのも「以前、うちで作った家具の修理を依頼する窓口が必要なため」であり、ときには地元の人から「絵本をモチーフにしたウサギの椅子を作ってほしい」とか、造形教室の先生からの「子供の絵を飾るための額縁を作りたい」といった声に応えるためである。今も昔も、やることに変わりはない。ただ……

tatehikoのものづくり
tatehikoのものづくり

「私たちがこうして、いろいろな挑戦ができるのも、頼りになる優秀なスタッフのみんながいるからです」と清水さんと和木さんは口を揃える。これで終わりということはない。だからこそ、一緒に面白がってものづくりができること、大変なことはあるけれど笑い合いながら前に進むことができる仲間がいることは何より「かけがえのない力」である、と。

tatehikoの方々

次は何を作ろうかーー建彦木工のものづくりは、まだ始まったばかり。

作り手情報

建彦木工 企業名:株式会社昭栄家具センター 建彦木工
所在地:栃木県足利市名草下町1-1-12
創業:明治25(1892)年
公式HP:
https://www.shoeikagu.jp/
ブランドHP:
https://www.tatehiko.jp/

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