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及源鋳造及源鋳造
及源鋳造

オイゲンチュウゾウ及源鋳造水沢の鉄釜屋が作る
南部鉄器は、
毎日を美味しくする
“一生もの”

嘉永5(1852)年、岩手県奥州市水沢に及川源十郎鋳造所として創業。平安時代にルーツを持つ鋳造技術や文化を、時代とともに進化させながら、そのときどきの暮らしに必要な日用品を多様に生み出す。曰く「うちは鍋釜屋」。得意とするのは鍋や釜、フライパン、そして鉄瓶など、毎日を美味しくしてくれるキッチン道具のあれこれ。

STORY

鉄の力を理解し、信じて、鋳造した頼もしきキッチン道具

「昔からこのあたりじゃ、どこの家庭にも一つや二つ鉄器があって、普通に使ってきたんじゃないかな。鉄器で何を作るのかって?なんてことはない普通の料理ですよ。鉄鍋で味噌汁や肉じゃがを作ったり、ご飯を炊いたり。すき焼き鍋ですき焼きしたりね。ちなみに今朝は、鉄のフライパンで目玉焼きと野菜炒めを作って食べましたよ。ね、普通でしょ(笑)?」

テキスト及源鋳造の画像

そう話すのは、南部鉄器の老舗「及源鋳造」五代目の及川久仁子さんである。年の暮れには黒豆を煮て(鉄器ならわざわざ釘を入れる必要がない!)、正月になれば餅を焼く。そんなふうに日常に当たり前のように鉄器がある暮らし。同社の鋳物づくりの原点は、まさにそこにある。

そのときどきの“必要”から生まれた日用品

及源鋳造があるのは岩手県南部に位置する奥州市水沢。嘉永5(1852)年の創業以来、実に170余年の歴史を誇る同社は、ここ水沢に伝わる鋳物文化を脈々と受け継いでいる。

そもそも南部鉄器は、岩手を代表する伝統工芸品の一つ。県庁所在地である盛岡市と、同社がある水沢地域を二大産地として発展してきたというが、その成り立ちや背景は少し違うらしい。

「盛岡は江戸時代に南部藩の御用鋳物師をルーツとし、茶道の隆盛とともに繁栄してきました。茶釜などの茶道具や贈答品など、いわゆる美術的な要素が強いのが盛岡の鋳物です。一方で水沢の鋳物はもう少し庶民向けというか……」と話すのは同社のプロダクトデザイナー、佐藤健一さん。

元を辿れば11世紀末、岩手県平泉に中尊寺金色堂を建立した藤原清衡が近江から鋳物師を招き、釣鐘などの仏具を作らせたのがはじまりとされている。清衡の没後、県南に移り住んだ鋳物師はここ水沢で半農半工の生活を行うようになったとか。

「自分たちが農作業で使う鍬や鋤だったり、お風呂を沸かすための風呂てっぽう(風呂桶の中に入れる鉄の筒。この中で炭や薪を焚くことで湯を沸かした)だったり。このあたりは馬の産地でもあったので、餌を入れるかいば桶などを作ったりしていたそうです。もちろん、炊事で使うような鍋や釜などもその一つ」

必要なものを自分たちで作る。ときに不具合を正し、ときに使い勝手のいいように改良を加えながら、暮らしに必要なものを生み出していく。そんな鋳物師ならではの技術とものづくりの精神が、水沢には息づいていた。

きれいにサビを落とした鋳鉄の塊
きれいにサビを落とした鋳鉄の塊

しかも「ここは鉄器を作るために好適な環境にありました」と佐藤さん。

のちほど詳しくお話しするけれど、鉄器づくりには原料となる鉄が要る。鉄を溶かすためには燃料になる木材が、型づくりには質のいい砂が不可欠。

「東に広がる北上山地で鉄鋼石は豊富に採れましたし、周辺は山々でしたから木材にも困らない。近くに北上川という一級河川もありますから、川砂にも恵まれていたんですね」

鉄にも「鮮度」があるんです

改めて、鋳造(ちゅうぞう)とは何か。金属を高温で溶かし、型に流し込んで冷やし固めることで、器や部品などを作る製法のことである。

工場内はとにかく暑い……佇んでいるだけで汗だくだ
工場内はとにかく暑い……佇んでいるだけで汗だくだ
鋳造について熱く語る、五代目の及川久仁子さん
鋳造について熱く語る、五代目の及川久仁子さん

「鉄器の面白さはまさにそこにあると私は思っています。叩いて伸ばす鍛造や、機械でプレスするだけでは決してできない、かたちを作る技術というのかな。たとえばステンレスやアルミニウムで薬缶を製造しようとした場合、パーツごとに型を作って、後から溶接して組み上げなきゃならないんですけど、鋳造なら一体造形ができる。

有名なプロダクトデザイナーにうちの鉄瓶を見せたら、『溶接が上手だね』って言われたんですけど、いやいや、これ溶接じゃないから~って(笑)」(及川さん)

砂型を崩すと、中から冷えて固まった鉄瓶が顔を出した
砂型を崩すと、中から冷えて固まった鉄瓶が顔を出した

鉄器はまず鉄の品質に左右される。1500度の溶解炉でドロリと溶かした鋳鉄を、24時間365日体制で液体状に保持しているという。

先に登場した佐藤さんは「鉄は溶けても鉄。つまり錆びるんです。鉄の酸化をできる限り防ぎ、常に使えるような“新鮮な状態”にしておくことが大事」と言っていた。

型に流し込むときの鉄の温度は、およそ1500度
型に流し込むときの鉄の温度は、およそ1500度

及川さんも、「鉄はあくまでも自然物ですから不良がないとも限らない。少しでも成分が基準値から外れると製品に不具合が出るから」と話す。鉄の良し悪しを見極めるため、毎日毎時間の鉄の成分をデータ化するという徹底ぶりだ。

鋳肌が美しさを纏う理由

鉄と同じくらい肝要なのが“砂”である。「うちは鉄屋なんだけど、砂屋なんじゃないかってくらい砂を使うんです(笑)」(及川さん)。

鋳物を成型するためには砂型を使う。文字通り、砂を固めて作る鋳型のことで、簡単に説明すると、砂をほどよく練り、圧縮して型を作る。その型にアッツアツに溶かした鉄を流し込み、冷やし固めたら、砂型を砕いて、中から鋳物を取り出す、というのが一連の流れ。

製品の模型を砂で挟んで砂型を作る。砂型で鉄が成形できるのかと疑問に思ったけれど、高圧で固められた砂型は「人が上を歩けるほどに硬いんです」(及川さん)
製品の模型を砂で挟んで砂型を作る。砂型で鉄が成形できるのかと疑問に思ったけれど、高圧で固められた砂型は「人が上を歩けるほどに硬いんです」(及川さん)

砂型は一度使ったら壊される。一見、単なる材料の一つのように捉えられそうだが、「うちの鋳物の良さってね、鋳肌の美しさにあるんです。そのために砂はめちゃくちゃ大事。なぜなら鋳肌が美しくなるかどうかは砂型次第だから」とのこと。

砂型に流し込んだ鉄器の表面には、砂の粒子がそのまま反映される。粒子が粗ければ鋳肌も粗くガサガサになり、きめ細かく滑らかな砂だと鋳肌はそれを写しとり、美しい表情を描き出す。
だからこそ、砂を扱うのはベテランの職人だ。砂の質や水分量、粘度、その日の温度や湿度までも鑑みながら砂を練り上げ、砂型を作るという。

砂の質感を確かめながら、砂型を作っていく
砂の質感を確かめながら、砂型を作っていく
鋳物の形やサイズによって、砂型に鉄を入れる温度やタイミングを変えているとか
鋳物の形やサイズによって、砂型に鉄を入れる温度やタイミングを変えているとか

さらに「鉄が流れ込む道を“湯道”というんですけど、これをどう設計するのかも重要で。鉄が型の奥までスムーズに入れば鋳肌は滑らかに美しくなるけれど、流れが悪いと、たとえば鉄の温度が途中で下がって奥に入る前に固まってしまったり、砂が混じり込んでブツッとした凹みができたりと、不具合になるんです」

湯道の分かる型を見せてもらったとき「ここは撮影禁止ね」と及川さん。なるほど、湯道は門外不出、大事な企業秘密なのである。

砂型から外された鋳物は、仕上げの工程へ。焼きついた砂を払い、余計なバリ*をグラインダーなどで丁寧に落とし、研磨していく。
*はみ出した鉄の出っ張り部分。たとえるなら、羽付き餃子の羽のようなもの

研磨は一つひとつ手作業だ
研磨は一つひとつ手作業だ
その日は、「新亀甲アラレ」の鉄瓶を仕上げていた
その日は、「新亀甲アラレ」の鉄瓶を仕上げていた

また仕上げ方法の一つに釜焼きがある。「およそ900度の高温で素焼きすることで、表面に酸化皮膜と呼ばれる膜が形成され、鉄がサビにくくなるんです。これは江戸時代から続く伝統技法の一つで、自然の摂理を活用したサビ止めなんです」

近年は表面にテフロン加工などを施すことでサビを止めるというやり方もあるけれど、「とことん鉄に向き合い、そのものを活かすものづくり」は、同社の大事な基盤である。

「鋳物ってそもそもは自動車や船舶の部品といった工業製品に使うもの。だから10cm、20cmの肉厚であることが当たり前。でも、それを3~4mmの日用品にしようっていうのですから、これはちょっと特別なことだし、日本人ならではのものづくりなんですよね。おまけに鋳物の“肌の美しさ”にこだわっている私たちって……(笑)」

及源鋳造工場隣接の直売店。多種多様な鉄器が並べられている。
及源鋳造工場隣接の直売店。多種多様な鉄器が並べられている。

鉄器はサウンド。料理を五感で愉しむ

鉄器はじめは、鉄瓶で白湯を沸かすのもいいけれど、「私としては鉄鍋で、野菜や肉を焼いてみてほしいですね。きっとその美味しさにびっくりすると思うから」と及川さん。

「以前、岩手県でも指折りのシェフが教えてくれたんですけど……」と話してくれたのが、蓋付きの鉄鍋で一本のズッキーニを焼いたときのこと。油を軽く引いてお尻と頭をちょこんとカットしたズッキーニを丸ごと入れて焼く。ただ、それだけなのに「外側は焼き色がついて香ばしく、中はものっすごくトロトロで、驚くほどジューシーになった」のだとか。

鋳鉄は熱を蓄えやすく、冷めにくいので、食材を入れても温度が下がりにくく、ドリップが出にくいのがいいところ。さらに熱せられた鉄が遠赤外線を含む輻射熱を放ち、食材を包み込むように加熱する。内側までじっくりと熱が入り、素材が持つ旨味や風味を逃すことなく焼き上げる、というわけだ。野菜はもちろん、肉でも、魚でも、鉄器は同様の力を発揮する。

「そのシェフが言ってたんです。『鉄器は、サウンドなんだよ』って。焼きはじめはチリチリとした音なんだけど、途中でジューッとなって、最後にはシューッになる。鉄器は素材にどれくらい火が入ったのを音で教えてくれるから、鉄を信じて、きちんと音を聞きなさいって」

音を聞き、熱を感じる。立ち上る匂いをかいで、火が入ることで食材が料理へと変化する様を眺め、そして味わう。

「そんなふうに五感で愉しむことができるのが鉄器の魅力だと思っています」

及源鋳造工場の近くには、南部鉄器の魅力を体感できる喫茶店があった。
及源鋳造工場の近くには、南部鉄器の魅力を体感できる喫茶店があった。
左は新品。右は数年使用したもの。使うにつれて色艶が良くなり、焦げにくくなる。
左は新品。右は数年使用したもの。使うにつれて色艶が良くなり、焦げにくくなる。

肌を整えるように、鉄器にも潤いを

とはいえ、鉄器使いに慣れていない人の頭に思い浮かぶのは「手入れが面倒なんじゃないの?」「使いこなせるか分からない」という漠然とした不安だろうか。

焼き焼きグリルシリーズ「スリム」。シャケの切り身をそのまま焼いたり、焼きおにぎりや餅を焼くのにも便利。
焼き焼きグリルシリーズ「スリム」。シャケの切り身をそのまま焼いたり、焼きおにぎりや餅を焼くのにも便利。

「その不安のハードルをちょっと超えると、あとはとってもラク。ガチャガチャ使っても壊れないし、使うほどに育っていくという面白さもあるんですよ」と話すのは営業部長の岡島基子さん。

不安は知らないことに由来する。ということで、鉄器使いのウンチクを少しだけ教えてもらうことに。たとえば鉄瓶。鉄瓶で白湯を沸かすと湯がまろやかになっておいしくなるというのは、もはや周知の事実。下写真はショールームで毎日のように使っている鉄瓶である。中には真っ白な湯垢がびっちりついている。

ショールームで使っている鉄瓶で入れた白湯は、まろみがあって優しい味わいだった。
ショールームで使っている鉄瓶で入れた白湯は、まろみがあって優しい味わいだった。

「湯垢は鉄とミネラルが反応してできた結晶です。この地域の水は山に近い天然水ということもあって、一度沸かすだけでも白っぽくなりますけど、まったく問題ありません。なんなら、お湯がさらにまろやかで優しい味わいになりますよ」

さらにサビ問題。下写真のような状態になったとき、「これってまだ使えるのかな」と思うかもしれないけれど……

「サビたら落とせばいい、だけのこと」と岡島さん。
「サビたら落とせばいい、だけのこと」と岡島さん。

「大丈夫ですよ。不安になってこのまま使わなくなるっていうのが一番、もったいないこと!」と話す岡島さんが用意したのはキャベツのなどの葉野菜と油。このとき使うのは匂いがなく、混じり気のない米油などがおすすめだとか。

「まずはタワシでゴシゴシこすりながら水で流します。水気をよく拭いたら火にかけて、水分を飛ばしてください。そこにちょっと多いかな、くらいの油を入れ、キャベツを加えて鍋肌に油が馴染むように炒めます」

鍋肌に油を馴染ませるように、キャベツを炒める。
鍋肌に油を馴染ませるように、キャベツを炒める。

「野菜がしんなりしてきて鍋肌にしっかり油が馴染んだら、野菜を取り出し、鉄器の温度が冷めるのを待って、水で洗ってみてください。」

水洗い。たわしでゴシゴシこする。
水洗い。たわしでゴシゴシこする。

「すると、こんなふうに……」

サビが落ちて、この通り。
サビが落ちて、この通り。

お、落ちた……!ちなみに、この方法は鉄器を使いはじめるときの手入れと同じ。

「基本的には、使ったらきちんと水気を飛ばしてあげること。あとは鍋肌がカサカサしてきたな~と思ったら、油をちょっと塗ってあげるだけでいい。私たちも肌が乾燥してカサカサしたら化粧水や美容液を塗って潤わせるでしょう。それと同じです」

「定規を引かないものづくり」を100年先へ

及源鋳造では、江戸時代から続く技術を継承する鉄瓶職人や、鋳型の元となる原型を石膏で作る職人の育成などにも力を入れている。

及川さんは言います。

「今の産地を眺めたとき、このままでは昔ながらの職人がいなくなり、伝統の技術が途絶えてしまうのが目に見えているんです。でも、やっぱり人の手や感性が生み出す伝統工芸というものの良さは残したいし、伝えていきたい」

「私たちが作りたいのは単なるプロダクトじゃありません。なんていうのかな、定規を引かないものづくりというか、なんとなく余白のあるものの良さってあるじゃないですか。鉄器のデザインにしても、キャドだけでは決して描けないラインがあるんですよね。

鉄瓶のなんとも言えない丸みとか、鉄鍋の立ち上がりの角度、フォルム……工業製品にはない工芸的な美しさを持つ鉄器を目指して。この先10年、20年、そして100年先もずっと、OIGENならではの鉄器を作り続けていきたいと思っています」

作り手情報

及源鋳造 企業名:及源鋳造株式会社
所在地:岩手県奥州市水沢羽田町字堀ノ内45
創業:嘉永5年(1852)年
公式HP:
https://oigen.jp

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