一度味わってしまうと戻れない、お茶の時間の必需品です。及源鋳造の南部鉄瓶

日本各地から五十を越える作り手たちが集う中川政七商店主催の合同展示会「大日本市」。 その運営を担うメンバーは、日々、全国の作り手と交流し、年間何百という品物に出会う、いわば「いいもの」の目利き集団。 この連載では、そんな彼らが「これは」と惚れ込んだ逸品をご紹介。実際に使ってみての偏愛を語ります。

語り手:吉岡 聖貴

中川政七商店の店舗開発、企画展ディレクション、新規プロジェクトなどを担当。
モノとの出会いには公私の境無く貪欲で、気になる土地を訪ねては、心躍るクラフトを連れ帰り生活に取り入れてみるのが日課。生活を楽しみ、旅をたしなみ、美しいものを大事にしています。
熊本出身でも酒には弱く、珈琲や茶を嗜む今日この頃。

ブランド:OIGEN  
推しの逸品:鉄瓶東雲アラレ

私たちはお客様への感謝の気持ち風土や歴史への感謝の気持ち食べ物への感謝の気持ちを鉄器に込めてその何よりもの愉しさをお届けします。

味わって珈琲よりもお茶派な僕は、毎日朝晩にあたたかいお茶を飲んでいます。その時お湯は必ず、鉄瓶で沸かします。一度知ってしまうともう戻れないくらい、お茶の味が変わるからです。

実は出身の熊本市は、水道水が地下水100%。蛇口をひねると天然のミネラルウォーターが出てきます。そういう環境で育ってしまったので、地元を離れてからは水道水の味の違いに慣れず、お茶を淹れる時にも、いつも浄水器やミネラルウォーターでしのいでいました。

それが、5年ほど前に鉄瓶を使い始めてから一変。鉄瓶でお湯を沸かすと、水の中の塩素が分解されて、水がまろやかになります。一口飲んだ時に、「そうそう、この味」と嬉しくなりました。個人差はあると思いますが、お茶や珈琲を淹れると、味や香りがぐっと引き立つように感じます。

小ぶりで気軽に使いやすい及源鋳造の東雲アラレ

家ではいくつかの鉄瓶を愛用していますが、及源 (おいげん) 鋳造の東雲アラレは比較的小ぶりで気軽に使え、安定した注ぎ心地がお気に入り。取っ手が長く重心が低いので、少し傾けるだけで力を入れずに注げます。



お湯の出方も特徴的で、狙ったところにお湯が注げる感じがあり、急いでいる時でも使いやすいです。IHにも対応していて、底面はきれいにまっ平。こうした細かなところ一つひとつに、使い手想いの工夫を感じます。


1852年創業、江戸時代末期より鍋釜を作り続けてきた及源鋳造。その鉄瓶には庶民の生活道具を手がけてきたメーカーならではの、機能性の高さを感じさせる

愛でる楽しさ、育てる楽しさ

そして使い勝手だけでなく、その佇まいも南部鉄瓶の大きな魅力。独特のアラレ文様が施された鉄瓶は工芸品の気品を纏い、沸騰して鉄瓶から柔らかな湯気がたつ光景は、少しのあいだ思わず眺めてしまいます。この時間も含めて、朝晩のお茶が僕のオンオフの切り替えスイッチです。


南部鉄独自のアラレ文様は、鉄瓶の表面積が増すことで保温効果が増すという、実用性を備えた美しいデザイン

鉄瓶は錆びやすく扱いが難しそうというイメージを持たれる方もいますが、実際はそれ程でもなく、「使い終わった後、必ず乾燥させる」「空焚きをしない」。これさえ守れば、極端に錆びることはありません。濡れたまま放置せず余熱で乾かし、毎日使うことで内部に湯垢が付けば錆びにくくもなり、お湯の味も更にまろやかに。

使ってみると、毎日の飲み物の質が変わり、鉄瓶自体も少しずつ表情が変わっていきます。沸かす時間や手入れをする時間も込みで、育てることを楽しみたい道具です。

 

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