デザイナーが話したくなる「有田焼の絞り出し急須」


10年以上商品のデザインをしている岩井さんが「こんなに試作品を作ったことはない。」と、感慨深そうにずらっと並んだ試作品を愛おしそうに見ていました。

お茶を家で誰でも美味しく飲むためには、と考えたお茶の道具。
その工程で出来たのがこのたくさんの急須と土瓶と湯呑のサンプルなんです。(実は写りきれてないものがまだまだありました。。)

煎茶と玉露用の急須、焙じ茶用の土瓶。
今回は急須のお話を聞きました。

→焙じ茶用の萬古焼の耐熱土瓶のお話はこちらから



まず、お茶を美味しく淹れるとは?
普段の私は、なんとなく茶葉を入れてポットからこれくらいかな?という量のお湯を入れて、これくらいかな?という時間で湯呑に注ぐという、なんとも適当に入れています。
お茶は、「茶葉の量」「お湯の量」「お湯の温度」「抽出時間」の決まりを守れば、美味しく淹れることができます。
一応私も分かってはいるのですが、毎回ちょうどいい茶葉の量は茶さじですくうのは難しいし、お湯の量を計るということは、なかなか手間で億劫になります。



これを道具で解決できないかと考えたのが、はじまりだったのです。
茶葉が計れる茶さじ、お湯の量がわかる急須を作れば、「量」の部分は簡単に解決できるのではないか。
出来上がったものを見れば、これぞ一目瞭然の機能と美しさを兼ね備えた仕上がり。

内側の目盛りは一目盛り140mlで満水の目盛まで湯を入れると280mlになり、70mlを1杯分として4杯分の煎茶を淹れられます。
有田焼の白は煎茶の緑が美しく映え、磁器製のため吸水性が低く、においがつきにくく、日本茶の繊細な香りや色を最大限に引き出すことができます。絞り出し急須は、最後の一滴まで美味しくいただけるうえに、茶こしの穴や段差がなく洗いやすい。
しかし、使いやすくて美しい急須が出来上がるまでは、気が遠くなるような試行錯誤が待っていたんです。



煎茶や玉露を淹れる急須として宝瓶(ほうひん)というものがあります。一般的に持ち手が付いていない、急須のような形をしています。この宝瓶(ほうひん)を参考に、家でも気軽に使えるものを作りたいと考えたのです。
たっぷりの容量がほしいから高さが必要。
気軽に持ちやすいように持ち手をつけたい。
持ち手は所作が美しい横手を採用したい。
この考えを元に、有田焼の窯元さん、そして型をつくる原型師さんと試行錯誤を繰り返すことになります。

絞り出しの形に注目していた私ですが、試行錯誤の一番の肝は「横手」だったんです。
高さが必要だけど、高くなると横手の重さに引っ張られてフォルムが歪む。
横手を短くすれば重さは軽減されるが持ちにくい。
高さを出さずに横幅を広くすると、デザインがぽってりする。
何度も何度も原型師さんと相談し、試作を繰り返したそうです。

思わず「持ち手って付けるだけじゃないんですか?」と聞き返したことを後悔しました。。



横手は焼く途中で、最初に付けた位置から下がってくるものだとか。
それを考慮して、焼き上がってきた時に、理想の持ちやすい位置になるように、最初に付ける角度を決めるというのです。これは、焼いてみないとわからないので、下がりすぎたり高すぎたりを、何度も繰り返して調整するのです。



もちろん急須の特徴である絞り出しの口も、簡単に出来たわけではありません。
茶葉が出にくく、それでいて注ぐ量が確保される、溝の深さと本数を追求し、切れがよく後引きしない注ぎ口のフォルムを調整するのです。



忘れてはいけないのは、お湯の量がわかる目盛り。デザインのフォルムが少しでも変わると、目盛りの位置も微妙に変わるので、毎回容量を計算し直し、図面を書き直す。こうして煎茶に必要な140mlと280mlがきっちり計ることができる目盛りを実現しています。
小さな汲み出しは玉露に適量な35mlが入ります。一目盛りで4杯淹れることができるので、美味しい煎茶が淹れれるようになったら、ぜひ玉露にも挑戦してみてください。実は、話しながら気がついたのですが、煎茶の汲み出しと玉露の汲み出しを重ねたら、ちょうど急須の中に収まるので、収納時に場所をとらないんです。煎茶の汲み出しだけなら3つ重なりますよ。


簡単そうで適当に入れてしまっている毎日のお茶。
「本当に窯元さんと原型師さんにお世話になったんです。」と感慨深い岩井さんと、ずらっと並んだ試作品を前に、少し恥ずかしくなりました。これからは、簡単だけど適当ではないお茶の時間で、美味しい一休みをさせていただきます。
 




→焙じ茶用の萬古焼の耐熱土瓶のお話はこちらから
 

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