地産地匠アワード2026
グランプリ
「izaiza」
ラグ(熊本県八代市)
1998年に熊本デザイン専門学校を卒業後、それぞれ建築会社に勤務。2010年より共同でものづくりを始め、2019年、田中の伯父がい草農家だったことをきっかけに「igusa accessory」を発表。現在はアクセサリーからオブジェ、インテリア、空間作品まで展開している。熊本県八代産のい草を用い、畳の素材という固定概念を超え、一本一本を素材として捉え直した表現を追求。産地が転換期を迎えるなか、現代の暮らしに寄り添う新たな価値を提案し、い草の可能性を広げるものづくりに取り組んでいる。
1978年佐世保市生まれ。高校卒業後フリーターを経てアルバイトからグラフィックデザインのアシスタントをはじめる。福岡、東京に住んで2010年に熊本に引っ越し、独立。 2016年、熊本地震をきっかけに一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO設立。現在、企業や商品のブランディングから地域イベント主催、デザインを通した社会活動など活動の幅を広げている。ACC CMフェスティバル地域賞、グッドデザイン賞特別賞+ベスト100受賞、ニューヨークADC MERITなど 国内外受賞多数。
受賞者インタビュー
“織る”から“植える”へ。い草の可能性をひらく新発想のラグ「izaiza」
土地の風土や素材、産地や業界の課題に、真摯に向き合って生まれたプロダクト。そこには、日本のものづくりの歴史を未来につなぐそれぞれの物語がつまっています。「地産地匠アワード」は、地域に根ざすメーカーとデザイナーとともに、新たな「暮らしの道具」の可能性を考える試みです。2026年の受賞プロダクトの中から、い草の産地・熊本でうまれた「izaiza」をご紹介します。それぞれの背景にある物語をぜひお楽しみください。
畳文化を支えたい草(いぐさ)の魅力を、もう一度暮らしの中へ
「これ、本当にい草(いぐさ)なんですか?」
思わずそう尋ねたくなる、一枚のラグ。熊本県八代市で育てられたい草を使いながら、
「畳」とはまったく異なる表情を見せる新発想のラグ「izaiza(イザイザ)」です。名前の由来は「『藺』草に『座』る」を意味する「藺座(いざ)」という造語から。
立体的に植え込まれたい草が、毛足のあるラグのような柔らかさと、ほどよい張りを併せ持つ新感覚の質感を生み出しています。古くから畳やゴザに使われてきた素材とは思えないほど新鮮な佇まいですが、近づくと、どこか懐かしい畳の香りがふわり。
このラグを手がけたのは、プロダクトユニット「itiiti(イチイチ)」の田中典子さん、村上貴美さんと、クリエイティブディレクターの佐藤かつあきさん。国内有数のい草の産地・熊本県を拠点に、地域の素材と向き合いながら、新たな可能性を探っています。
い草は稲のようにすっと伸びる多年草。優れた調湿性や心地よい肌触り、心をほっとさせる特有の香りなど、天然素材ならではの魅力を持ち、日本の畳文化を支えてきました。なかでも八代市は「い草のまち」として知られ、国内トップクラスの生産量を誇ります。
「でも近ごろはそれが教科書にも載っていないし、畳がい草から作られていることも認識してもらえなくなってきていますね」と、田中さん。
住宅事情やライフスタイルの変化による畳需要の減少に加え、安価な輸入品の増加、市場価格の低下、い草専用の機械メーカーの撤退などが重なり、い草農家は年々減少しているのだそうです。
「まずはい草を知ってもらうことが大事なんです」
田中さんの言葉には、産地の現状をそばで見てきたからこその、強い思いが込められていました。
い草に親しむ入り口を作る、これまでにない提案
「畳に座るんじゃなくて、い草に座りたかったんです」
田中さんのその一言に、このプロダクトの原点がありました。一般的にい草は、ゴザや畳表として織り上げられたのち、さまざまな製品へ加工されていきます。しかし田中さんが見つめていたのは、その手前にある、一本一本のい草という素材そのもの。
「い草を知ってもらう入り口として、これまでい草のアクセサリーなどを作ってきましたが、それだと女性がメインになるんですよね。もっと広く知ってもらうために、インテリアや暮らしの中で使えるものができたらいいなと思って」(田中さん)
伯父が元々い草農家だという田中さんにとって、い草は子どものころから身近な存在でした。その可能性を広げようと、い草のアクセサリーや、短くカットしたい草の断面を見せる椅子など、畳やゴザとは異なる表現にも挑戦してきました。
「伯父がい草農家をやめることになった時に、自分がこの立場にいたのに、やめさせてしまったような悔しさがあって。だから、い草をつないでいかなければいけないと思いました」(田中さん)
もっと多くの人に届けられる形を考えるなかで浮かんだのが、素材を一本ずつ打ち込む「タフティング」という技法。
「これでラグを作ったら、い草の世界が変わるんじゃないかと思いました」(田中さん)
「タフティング」は専用の器具で布に毛糸を打ち込み、ラグやカーペットが手軽に作れるというもの。体験やワークショップでも人気を集めています。高密度でしなやかな繊維を持つ、い草の特性を活かしやすい技法でもありました。
とはいえ、そのアイデアがすぐに形になったわけではありません。
「本当にできたら面白いと思っていたけれど、漠然としていて、構想のまま長く止まっていました」(村上さん)
そんな時、SNSで「い草でつくられたラグかも!」という写真を見つけて』東京で行われた畳の企画展に出品されたラグを目にし、「先にやられたと思って、本当に悔しくて泣いてしまった」と田中さんは振り返ります。
よくよく確認すると、それはい草ではなく毛糸のラグでしたが、その時の悔しさが「早く進めなければ」という強い原動力になりました。
い草を布へ打ち込む様子を「田植えみたい」という田中さん。
「い草を土に植える『イ植え』の風景と、タフティングでい草を打ち込む構造が重なるんで
す。い草農家の原風景が、そのまま映し出されているようで」
制作を重ねるなかで、「農業」と「ものづくり」は別々のものではないと感じるようになりました。
構想が大きく動き出したのは、2026年に佐藤さんとコラボレーションを始めてからでした。度重なる災害を受ける熊本の支援活動を続けてきた佐藤さんは、八代市での活動をきっかけにitiitiの2人に声をかけ、行動をともにするようになります。そのなかで試作のラグを目にし、「これは新しい。広がりがある」と直感したといいます。
「い草農家さんにとっては、い草はゴザや畳表になるのが当たり前。“織る素材”から、一本一本を主役にして“い草そのものを活かす”という使い方は、身近でい草を見てきた田中さんだからこそ生まれたもの。タフティングでラグにする発想は、畳から脱却して量産もできるかもしれない、とても新しいアイデアでした」(佐藤さん)
以前から気になっていた「地産地匠アワード」への応募を視野に入れ、プロダクトを洗練させる試行錯誤が始まりました。色や柄、コンセプトだけでなく、い草の歴史や文化まで掘り下げながら、「何を伝えるべきか」を3人で整理する日々。
田中さん曰く、「悩んでいるところの一歩先のヒントをくださる存在」だったという佐藤さん。担ったのは、プロダクトそのものをデザインするのではなく「その価値をどう伝えるか」を考えるディレクションの役割でした。
新しい形を生み出すitiitiの2人と、その価値を見つめ、伝え方を編み直す佐藤さん。それぞれの視点が重なることで「izaiza」は、畳だけではないい草の可能性を暮らしにひらく、新しい提案へと育っていきました。
新しい挑戦を後押しした、八代への想い
一方、佐藤さんは、本業であるデザインを通して、さまざまな社会活動に取り組んできました。
「東京や福岡など拠点を変えながら、妻の実家がある熊本に引っ越してきたんです。そして2016年4月に熊本で大きな地震が起きた。この大変な状況で、お世話になっている熊本に何かできないか、しなきゃと思うようになって。
復興には息の長い支援活動と、多くの人の関心が必要です。クリエイティブの力が少しでも役に立てばと、地元のクリエイターと一緒に一般社団法人『BRIDGE KUMAMOTO』を立ち上げました」
熊本では地震だけでなく豪雨もたびたび発生し、2025年にも深刻な被害に見舞われました。そのたびに佐藤さんたちは、被災地で使われたブルーシートをアップサイクルしたプロダクトの制作や、支援金・助成金を集める活動などを通して地域を支えてきました。
2025年の九州豪雨災害では八代市のい草農家も大きな被害を受け、itiitiの2人も車が水没するなど、被災を経験しています。
豪雨で地域全体が大きな傷を負うなか、企業から託された寄付金をどう活用するか考えていた佐藤さん。頭に浮かんだのが、八代市のい草を使って活動をしていたitiitiと、新しいプロダクトを生み出すことでした。
「農家さんにトラクターを一台買ってあげられるほどの予算ではない。でも、新しいプロダクトを生み出して、産地全体を盛り上げることはできるかもしれないと考えました」(佐藤さん)い草農家を支えたいitiitiの2人と、佐藤さんの思いが重なり、3人の挑戦が動き出しました。試作していたラグを「izaiza」へと昇華させ、「地産地匠アワード」へ応募。見事グランプリに輝き、い草の新しい可能性を広く発信するきっかけとなりました。
さらに今回の取材後、2026年7月に再び熊本を襲った大地震により、現地はいまも厳しい状況にあります。今回も佐藤さんはいち早く新たな支援プロジェクトを立ち上げ、itiitiの2人も八代へ駆けつけ、い草農家を支えています。
い草の未来を考えることは、その土地の文化や人の営みを支え、次の世代へつないでいくことでもあるようです。
い草の可能性を、未来へつなぐために
「izaiza」に使われているのは、畳には使われない、最も短い等級のい草です。
「い草は成長すると160cmを超えることもあります。長さによって8段階に選別されますが、短いものは畳表には使えず、廃棄されたり、燃やされたりしているのが現状です。『izaiza』やアクセサリーでは、そんない草を活用しています」(田中さん)
畳になれなかったい草が、誰かの暮らしを彩るラグになる。それは廃材活用というだけでなく、素材の可能性を最後まで信じる挑戦でもあります。農家からも「捨てるはずだったものが、誰かに喜ばれるものになるのがうれしい」という声が届いているそうです。
さまざまな熱い思いを抱く3人に、これからの展望を尋ねました。
「毛糸だけでなく、い草でタフティングの体験をしてもらえたら面白いですよね。い草を『畳の材料』ではなく、自分の手で形にできる素材として親しんでもらう。ものづくりの楽しさを入り口に、地域の素材や文化に興味を持つ子どもたちが増えてくれたらうれしいです」(村上さん)
「八代にい草の資料館や博物館、ショップなど、もっと見て触れてもらえる場ができるといいですね。農家さんの現場を見てもらえるツアーなどもできたら。田んぼを見たり、香りを感じたり。私たちがハブ役になって、い草の背景まで含めた体験を届けたいです」(田中さん)「まだまだ魅力に変えられるものはたくさんあると思うので、それをどう形にしていくのか考えていきたいですね。オープンな施設で触れてもらい、いろんな人がラグなどを作れるようにしたり、プロダクトを販売したり。ホテルや国際会議場、駅などでもitiitiさんの作品が採用されて、多くの方に触れてもらいたい。工芸は、最初から伝統工芸だったわけではないんですよね」(佐藤さん)
3人の思いの先にあるのは、い草の魅力を次の世代へつなぐこと。「izaiza」は、今はまだ小さな挑戦かもしれません。けれど、一本のい草から、新しい物語はもう始まっています。100年後、このラグが当たり前のように暮らしの中にあり、「い草にはこんな使い方もある」と語られていたなら。それは、新しい工芸の始まりと言えるのかもしれません。
販路支援
2026年10月14日より、中川政七商店店舗とオンラインショップを中心に販売開始予定です。
<取り扱い店舗一覧>
ほか、最大60店舗で取り扱い予定
※取り扱い店舗は変更になる可能性があります。最新の販売状況はお問い合わせフォームよりご確認ください。