地産地匠アワード2025

地産地匠アワード2025
審査レポート

2024年の初開催に続き、2回目の開催となった「地産地匠アワード2025」。全国各地から計69件のエントリーが集まり、一次審査では審査員それぞれが書類で審査を実施。計11点が最終審査に進みました。
最終審査では、2日間にわたり対面での審査を実施。1チームずつ、実物サンプルの提案とプレゼンテーションを行いました。その後、審査員それぞれの評価を持ち寄って議論した上で、グランプリ1点、準グランプリ1点、優秀賞2点、奨励賞2点が決定。
このレポートでは、最終審査の場で何が議論され、どのように受賞作が決定したか、その過程をお伝えします。

審査員達

【坂本大祐さん(以下:坂本)】二次審査を終えて、点数の高かったものをテーブルの真ん中に置いて検討しましょうか。

点数の高かったもの

【大治将典さん(以下:大治)】こうして見ると、「三河軍手」が善戦した感じがしますね。一次審査の時、僕は最初に落としてしまいました。坂本さんは「スパイラルインナー」に厳し目の評価をしていますね。

【坂本】「これは地産地匠かな?」というのが、ずっと引っかかっています。チームの体制の部分と、商品のホルダー、誰が主体なのかがはっきりしない部分がすごく気になります。このチームに地産地匠アワードが賞を与える意味がどこにあるのか、この人たちがこの賞をもらって販路支援されることでこれからどうなっていくのか、という像が見えなくって。なので、むしろ奨励賞の方が合っている気もしています。もの自体はとてもいいんですよ。それはすごく理解しているんですけれど、地産地匠なのかなという部分がずっと引っかかっています。

【長田麻衣さん(以下:長田)】これがグランプリになると、来年、再来年の賞にも響く気がしますね。

【坂本】もう一つ、素材に対する目線や、産地に対する奥行きという観点ではすごく弱いと思います。ものの良さが前傾化しているなっていうのは正直あって。ものは良いというのは理解した上で、僕は今回のアワードで考えると、どうなのかなと思っています。

【大治】なるほど。長田さんは、この中でイチオシってありますか。

審査風景

【長田】私はKOHABAGと、大門箸の2つで悩んでいます。1番はKOHABAGな気がしていて。ものづくりとデザインのバランスも理想的な関係性であるということと、デザイナーの方がおっしゃっていた、「自分がいなくても商品が続くこと」を見越した設計がすごいと思います。そういう意識でデザインをしていくことがこれから大事になっていくだろうなと思うと、他の産業にも参考になる姿勢なのかなと思いました。取り組みの姿勢も含めて、1位かなという感じです。

【矢野直子さん(以下:矢野)】私も同じなんですよ。大門箸とKOHABAGを選んでます。ただ、今後の可能性という意味だと、
KOHABAGは展開がバックだけなのか?が気になります。せっかくテキスタイルをここまで仕上げているから、例えば浴衣にも挑戦してみたりとか、アパレルも含めた展開がないと、今のままではもったいないなと感じました。

【大治】テキスタイル勝ちしてるみたいな。

【矢野】そうですね。バッグありきというのがとてももったいないので、その点は伝えたいです。

【坂本】なるほどね。

【矢野】大門箸は、象徴として1番安い工芸で、これからの伝統工芸の広がりを感じさせてくれました。箸は箸以外の何者でもないんだけれども、これから広がって定着していく可能性を感じます。
なので、象徴的に大門箸をグランプリにして、他のものを準グランプリとかにしたらどうかなと考えています。スパイラルインナーはもう少し製造機械についての話を聞いてみるとか、どういう広がりを今後期待するか、どうやって売るかをサポートしてあげたらいいと思います。

【大治】坂本さんのイチオシは何ですか。

審査風景2

【坂本】僕はグランプリをKOHABAGにしました。長田さんがおっしゃっていることと同じで、「地産地匠」を象徴するものかどうかという観点だと、やっぱりKOHABAGになるかなと。クリエイティブを受け入れる姿勢があり、ファクトリーを開く取り組みを自ら行っている産地の方と、世界を知ってるデザイナーが組んだという部分において、とても好事例だなと思ったんです。
また、ファッション寄りになってる点もわかりやすくて面白いなと思いました。小幅生地の生地幅をそのまま生かしたデザインなので、産地の生地なら、どれでも無駄なく使えるデザインである点もすごくいいなと思います。なので、チームのタッグの良さを決めるっていう意味においては、KOHABAGが1番良いんじゃないかなと思ったんです。
大治さんはどうでしたか。

審査風景3

【大治】僕はグランプリにスパイラルインナーを選んだんですよ。僕がこれを推したい理由は、まずはプロダクトとして革命的な発明であることと、着心地自体も良かったという点。
さらに地産地匠の「地産」の観点で言うと、このチームのような人たちこそ救っていかなければいけないのでは、と思ったんです。他の候補作は工芸の産地としてもわかりやすくて、それを評価する点もわかります。でも、スパイラルインナーのように工芸になり得てない「産業」の部分も、これからどんどんシュリンクしていく状況にある。彼らも新しいクラフトとして何かを生み出していかないと衰退してしまう。
スパイラルインナーのメーカーさんも、おそらく日々量産をしてるメーカーで、そういった技術をちゃんと盛り上げていくことがすごく重要だと思っています。地産地匠でその部分を評価できないと、新しいものを今後作っていけなくなるし、もう出してくれなくなってしまうのではないかと思うんですよ。

【坂本】確かにね。

【大治】デザイナーが全然入ってない感じも僕はすごく好印象です。技術者もクリエイティブをやってもいいじゃんって。わかりやすいクリエイティブと、わかりやすい盛り立て役という構図になってると、結局そういう人たちだけがクリエイティブをやっている感じになってしまう。僕はそれに対して疑問を持っていて。その枠の外にいる人たちが地産地匠に集まってきて、また地殻変動が起きたらいいなと思うんですよね。そういうことの象徴として、僕はこれを評価したい。
KOHABAGもすごく良いなと思って迷っていますが、やっぱりプロダクトの部分でもう少しやりたいことが見えてきてほしいです。可能性として、38センチの幅の生地という制限の中で何ができるのか、もっといろんなものを提案してほしいと思いました。

グランプリとして、何を伝えるべきか?

【矢野】甲乙つけがたいですけど、完成度の点でいうとやっぱり大門箸かな。でも、KOHABAGもスパイラルインナーもこれからの可能性があって、そういう点を評価して、もっと良くしていってほしいということを伝えられたらいいのかなと思います。

【大治】大門箸は、デザイナーが産地に入って、無給でやりながら、売れたら売れた分だけお金をくださいよという手法で開発しているのがすごく面白いですね。このデザイナーを他の産地にも派遣した方がいいんじゃないかと思うくらい。
プロダクトの観点では、お箸のあり方を元に戻そうよというメッセージを感じてとてもいいなと思ったんです。西洋のカトラリーにならなくていいじゃん、お箸はお箸だし。というメッセージが地産地匠アワードから出て、販売されるということにすごく意味があるなと思いました。「季節が変わったからお箸も変えますよ」というメッセージをちゃんと言う。元々そういう営みがあって、だから森が循環してるということが伝えられたらいいですね。箸を使うと森が無くなってしまうのではなく、逆ですよ、ということも知ってほしい。
生活の中のいろいろな部分を見直したら、最終的にお箸は元の位置に戻りました、みたいなことがグランプリとしてメッセージが出ること自体、面白いと思います。

審査風景4

【矢野】もし大門箸がグランプリではなくて準グランプリに下がってしまうと、その瞬間、存在が薄くなってしまう気がします。1歩足らず、という評価になってしまって、あくまでお箸だからね、みたいなことになり得るなと。だから今回は、戦略的に地産地匠アワードとして評価するのはどうでしょうか。KOHABAGは、すごく惚れ込む人がいるかもしれないけれど、大門箸はある意味とても普通なもの。他の候補作とは値段が全く違うものでもあり、あえてその価値を評価したいと思っています。

【大治】矢野さんが大門箸をこんなに推すとは思わなかったです。利休箸の方が良いんじゃないかって、最初の時はおっしゃってましたよね。

【矢野】そうそう。そう思ってました。でも甲乙つけがたいところで戦略的に賞をあげるとしたら大門箸が良いのかなと思っています。

【大治】一方で…KOHABAGはファッショナブルでそれを使ってみたい、というような、工芸に興味がない人でも惹かれるものが絶対にある。そういうフックが強い。
スパイラルインナーは、今は顧みられていない産業をちゃんと押し上げていくという点で評価したいし、三河軍手は、商品化したら絶対に売れるだろうという点で評価してもいいと思うんですよね。

【矢野】三河軍手は、愛くるしい。ものとしても精度としても申し分ないけど、グランプリではないかもしれないですね。

【長田】実用性を優先してるけど、ちゃんと可愛いのが良いですよね。
大門箸は、実物を見てより魅力を感じました。あと、デザイナーさんの熱量がすごくて、箸の産業自体をどうにかしたいという気持ちが強くありますよね。箸という存在について今まで深く考えたことがなかったのですが、こんなにかっこよくなるんだという部分を垣間見ることができました。どちらかの熱量が業界を動かして社会を変える、みたいなのもドラマティックでいいですよね。
ただ、作り手とデザイナーのバランスもとても大事な気がしていて。大門箸チームのタッグも良いんだけれども、それは奇跡的にデザイナーの熱量があったから実現できたものかもしれない。もっと熱量が同じで、タッグを組んで共に頑張っていこうぜという形が理想なんじゃないかとか。

【矢野】確かに、その視点もあった方がいい気がします。KOHABAGや三河軍手はチームが寄り合っている感じがしますね。

【長田】私はプロダクトのクオリティは感覚でしか判断できないですが、ものを作るデザインと、職人が一緒にプロダクトを作る上でのタッグの組み方において、他の産地の指標となり得るチームがグランプリになった方が業界的には良いのかなと思っています。
となると、バランス的にKOHABAGを推したいです。でもスパイラルインナーチームの、繊維の専門家と技術者それぞれの知見を持ち合わせてすごいものを作りました、的な視点も大事だし…悩ましいですね。

審査風景5

【坂本】僕は、いわゆるお箸みたいなもののアップデートは想像もしたことなかった。でもデザイナーが箸を使い続けて、そこまでたどり着いたのがすごいと思います。

【大治】何を応援したいのか、っていう視点であれば、僕はやっぱり大門箸の方がいい。他の候補作は他の道でも頑張れるんですよ。いろんなフックがあって、どこからでも引っ掛けられる気がするけれど、大門箸はちゃんと奇跡を起こさないと現実が変わらないと感じます。

【長田】なんかだんだん、大門箸に近づいてきましたね。

【矢野】グランプリは、その年の象徴になる。それが箸だと、驚きと、新鮮さが出ますね。

【大治】もう一つ、新しい説得を思いつきました。
「新しいラグジュアリー」がどれなのかというと、大門箸が一番、新しいラグジュアリーじゃないですか?KOHABAGは今までのラグジュアリーの文脈にあるような感じがするけど、大門箸を大事にしていくことは、これからの本当の贅沢であり豊かさではないかと思いました。

【一同】あー。

【矢野】大門箸は、外食のときにお土産として持っていきたいなと思いました。

【大治】そして、食べ終わったら持って帰るとかね。例えば麻の綺麗な箸袋を一緒に提案するとか。カラーバリエーションで、拭き漆で、もう少し長持ちする大門箸があるよという提案とかも良いですよね。そしてお店でお箸を引き取る企画をして、10本持ち込んだら1本プレゼント…みたいなことも循環として良いと思う。その循環こそが、これからのラグジュアリーですよと伝えることもできる。やっぱり箸は日本の食の象徴だから、そういったメッセージが出せますよね。

【坂本】加えて言うと産地の観点でも、日本国内で割り箸を、ある程度の量を製造できるところは他にほとんど残っていない。でも大門箸のメーカーには、量産が叶う機械が唯一入ってるから生産が続けられている、というのも大きなプラス要因です。そこもしっかり語っていくべきだと思います。

【長田】今、完全に傾きました。腑に落ちました。

【大治】ではグランプリは大門箸でいいですか?
(満場一致で合意)
決まりましたね。10年後くらいに映画になると面白いですね。お箸物語。

グランプリ 「大門箸」

「大門箸」

【大治】続いて準グランプリを決めましょう。

【長田】準グランプリはKOHABAGが良いと思います。

【坂本】僕もKOHABAGですね。

【矢野】そうですね。

【大治】満場一致ですね、わかりました。では準グランプリはKOHABAGです。

【全員】(拍手)

審査風景6

【大治】KOHABAGは、一次の書類審査の時は単純に柄、パターンが面白いと思いました。テキスタイルのデザインが、それだけでフックする力があり、その後に誰かに伝えたくなるストーリーも両方ある。ただバッグというプロダクトで見た時に、もちろん素材の限界はあるけれど、もっと改善できる余地があるなと思いました。まだ解決しきれてない、という点で、やはり凖グランプリかなと。

【長田】私は何よりも、姿勢が素晴らしいと思いました。作り手とデザイナーのタッグの組み方を評価したい。
生地の幅が決まっているというような制限は、他の伝統工芸にもきっとあると思うんですが、それを弱みではなくて強みとして転換できる視点がすごいと思います。再現性のあるタッグの組み方と、視点がとても素敵だなと思いました。

【坂本】KOHABAGのデザイナーさんみたいな人が、もっと次々に現れてきたらいいですよね。地域にどっぷりと浸かって、作り手さんと意見交換しながら産地のことを考えてアウトプットをしていく。そういう人にどんどん地域に入ってきてほしいので、そういった意味でも象徴的なチームだなと思っています。

審査風景7

【矢野】同感です。デザイナーと作り手の良い関係があることと、属人的でないところ。デザインの仕組みを作っていて、産地でそれを応用していけるということまでを考えているのは、すごいことだと思います。
ただ大治さんもおっしゃってたように、プロダクトにはまだまだ改善の余地があると感じます。大門箸は完成していたから。そこもきちんとお伝えできると良いですね。

準グランプリ 「KOHABAG」

「KOHABAG」

【坂本】続いて優秀賞と奨励賞ですね。今一度、得点を確認しましょうか。

【大治】スパイラルインナー、三河軍手、ATSUZOKO、アップサイクルブランケットの順ですね。矢野さんは、一次審査の時から軍手を結構推していましたね。

スパイラルインナー

【矢野】そうなんです。軍手は個人的に猛烈に好きです。ただ一位か二位かと言われると、まだ余地があるなと。うわぁ猛烈に売れそう、という感じではなくて、まだその原石が見えるという感じがします。
スパイラルインナーも、同じ技術でパンツも展開できるな、とか、もうちょっと汎用性があって、でも全てワンサイズでどんな体型の人もカバーできて、となると、相当すごいプロダクトになるんじゃないかなと。それとあと、デザイン。

【大治】三河軍手は、実物を触ってみないと良さがわからなかった商品ですね。二次審査でとても印象が変わりました。ビジュアルだけの一次審査の時は、綺麗な色の軍手ができただけなのかなってあまりピンと来てなかったけど、触ってみるとフィット感がとてもよかった。この袖が長いものが特に良くて、ガーデニングに使いたいですね。

【矢野】想像以上に、使うシーンをイメージさせてくれました。自転車に乗るときやガーデニングはもちろん、お出かけでも使えそう。

【大治】まさにプレゼンにもありましたが、ハンカチ以上、ネクタイ未満ですね。

【矢野】そうですね。あと仕立てがとても上手だなと思いました。いい塩梅のカラーバリエーションと、タグの付け方と。ものとしてクオリティが高い。そして、チームのお二人の雰囲気も含めて、とても愛くるしいなと思います。

【坂本】今まで使用していた軍手を、国産のもので代替できる。そういうものが生まれること自体が、僕はすごく嬉しいですね。価格設定もよくて、全然買える価格帯ですよね。日常の中で消費できるもので、新たな提案としてすごく面白いなと思います。かつ、大治さんがおっしゃってたように、使えるものになってるという意味でもすごい良かったですね。

【矢野】使い込むことで愛着が湧きそうですね。普通の軍手だったら絶対にしないですが、例えば使っていくうちに三河軍手がほつれてきたら、繕って使い続けることもあり得るのかもしれない。

審査風景8

【大治】なるほど。ダーニングとかしたいですね。愛着を持って長く使いたいと思えるのは、すごくいいことだと思います。今まで軍手はそういう存在ではなかったから。

【坂本】そうですね。軍手のそのポジションを動かした、というのは大きいですね。

【長田】ファッションに寄せすぎないのがまたいいですよね。プレゼンでもおっしゃっていましたが、あくまで軍手であり、実用性が大事。でも可愛い。とてもバランスがいいですね。

【大治】では、優秀賞の1つ目は三河軍手にしましょうか。

【全員】(拍手)

優秀賞 「三河軍手」

優秀賞 「三河軍手」

【大治】スパイラルインナーは、グランプリではなかったけど、でもちゃんと優秀賞以上に入れてあげたい。そういうのを拾っていくんだよ、というメッセージは必要だと思いました。

【矢野】ちゃんと売ってねというメッセージとして、売る気を盛り上げるためには必要ですね。

審査風景9

【大治】例えば奈良でも、草履や靴下が産業としてあることが、一般の人にはそこまで知られていない。ちゃんと面白いもの作りをやってる「産業」があることを示すためにも、スパイラルインナーは評価されるべきじゃないでしょうか。実はニットって大阪の産業で、実はこれぐらいの視野があって、という言い方をしたいですね。
優秀賞のもう一つは、スパイラルインナーでいいですか?

【全員】(拍手)

優秀賞 「スパイラルインナー」

優秀賞 「スパイラルインナー」

【長田】あとはブランケットと厚底下駄ですね。ブランケットで1点気になったのが、継続して作れない点ですね。残反を使っているから量産ができないのかなという部分が引っかかって。

審査風景10

【大治】僕が気になったのは、全部シルクにしてほしかったということ。基材がウールなのが気になってしまった。シルクの端切れと端切れで作ったものも見てみたかったですね。使いたいという気持ちまで到達しなかった。

【矢野】シルクの端切れを循環させるために数量限定で作ったストーリーはとても素敵で、端切れを貯めたらまた作ることもできる。でもクオリティーの観点だと、毛が衣服についたり、繊維が舞って気になる部分もありました。
私は戦略ミスだなと思っていて、もっとブランドの方をしっかり押せばよかったと思います。このプロダクトではなくて、ブランドの方が魅力的に感じた。デザイナーの商品開発の視点がとても素晴らしかったです。

【大治】デザイナーの方がとても魅力的でしたね。ただ、もう少しデザイン性が欲しいですよね。もっと飛んでほしい。これが本気で、お店の中で見てほしいものにはなり切れていないのかなと。もう少し、デザインの力が足りてない印象でした。

審査風景11

【坂本】僕はデザイナーの10年を評価したいなと思いました。SILKKIというのブランドの中でも、アップサイクルブランケットを今回のアワードにあえて出したという風に彼女は言っていて。数を売るためのものも作っているけれど、あえてブランケットを出してきている。その想いも救いたいなと思います。
ただ、この商品自体を販路支援するかどうか。このブランケット自体を販路支援する意味性はあんまり見えないですよね。

【矢野】とすると、奨励賞にするのはどうでしょう。彼女のこれからの将来性を評価したいです。

【坂本】そうですね。そういう意味では奨励賞が良さそう。

【大治】ATSUZOKOは、まだデザインが足りていないですよね。このままで完璧かと問われたら、まだやれることがいっぱいあって、欲しい!というラインまではまだ到達していない。
例えば一度コンクールとかをして、若いデザイナーたちがゴリゴリのデザインをしてくれると面白くなりそうですよね。

【坂本】手で作れることが良さだとおっしゃっていたので、色んなバリエーション展開も期待できますね。

【矢野】SHIBUYA 109での展開はどうですか?

【長田】値段はやや高いかもしれないですが、若い子も全然履きそうです。

【矢野】さまざまな若手デザイナーとコラボしていって、いろんな可能性を模索する。その後押しを奨励賞としてするのはどうでしょうか。

【大治】良いと思います。では奨励賞は、ブランケットとATSUZOKOの2つにしましょう。
これで、受賞作がすべて決定しましたね。お疲れ様でした!

【全員】(拍手)

ブランケット ATSUZOKO

審査総評

審査員一同

【大治】正直書類審査の時は、大丈夫なのかな?というものが結構あった印象でした。すくい上げてすくい上げて10個ぐらいになったけれど、二次審査で実物を見てみたら良いものばかりで、本当に落としづらかった。難しかったですね。審査で話を聞くと素敵な人ばかりだったし、才能溢れる人たちが日本中にこんなにいるんだということ自体が、本当にすごいことだと思いました。そこにこそが美しさの本質があるのかなと。そういう取り組みをこれから地産地匠が救い上げていって、新しい見え方のレイヤーを作っていきたいですね。
伝統工芸だとか、クラフトだとか、産業だ、みたいな網で見えなくなるのではなくて、「地産地匠アワード」というレイヤーに上げてあげたら、今までの日本が違う風に見えてくる。そんな取り組みをこれからもっともっとやっていきたいなと思いました。

【矢野】今までいろいろな賞を見てきましたし、工芸を盛り立てようと取り組んでいる団体もたくさんあって、それぞれに特徴もあって。ただ今回は、あまり囚われずに、自分の中ではものすごく素直な気持ちで選べました。それがなぜかと考えてみると、審査員のみなさんが、それぞれのジャンルの中で思っていることをしっかりと伝えてくれたからだと思います。
かつ、伝統工芸とはこうであります、というようなことは、ここではあまり定義しなくていいのではないか、という前提で成り立っている。素直にいいものだよねとか、いいストーリーだよねとか、ほんとに思っている部分を聞くことができたというのが、すごく良かったなと思っております。こういったスタンスで、いいものを見つける、いい人を見つけるという営みをぜひ続けていただければと思いました。

【長田】私はプロダクトに関するアワードの審査員自体、初めてやらせていただきました。いつもは企業の広告の中で、これをどう売るかという販促のアイデアを審査したりとか、それをどう伝えるかという審査が多くて。今回は、もの作りをしてる人たちと、審査員のみなさんとお話させていただいて、視野がとても広がりました。私自身とても勉強になったなというのが1番の感想です。
SDGsや社会課題の解決とか、何年も前から色々な企業が取り組んでいますけど、そこに対しての違和感を若者はすごく感じていて。なんか嘘じゃんみたいな、リアルじゃないじゃんみたいなのもあって。でも、じゃあそこってどう解決できるかがわからない。伝えることぐらいしかないのかな、と思っていた。でも、ちゃんと向き合ってものを作り続けるために、いろんなデザイナーさんと技術の人たちが真剣に作っていって、解決していっている。こういった人たちが世の中にはこんなにいるんだな、と改めて気づけたのと、それをどう伝えていけばいいのかなと考える機会にもなりました。多分、接点の部分とかはまだまだ伸びしろがあると思っていて、そこは別で考えてみたいなと。自分の今の仕事と全然違う会話にもなりましたが、繋がる部分もあったりして、すごく良かったなと思います。みなさんありがとうございました。

【坂本】前回のアワードでも、グランプリの「めぶく弁当」は新たな産地の生態系を作ろうとしているという部分に可能性と価値を感じて、素晴らしい取り組みだなと思っていたのですが、今回はその射程を持っている人たちがたくさんいらっしゃったなという実感がありました。グランプリを取った大門箸もそうですけど、他の受賞作においても、かなりものの根っこの部分まで想いを及ぼして、アウトプットまでまとめあげる人たちが、前回よりも増えた印象がすごくありました。
かつ、そこに若い人、女性がいるということの可能性も感じましたね。そういう人たちにもっと光が当たってほしいですし、新たに第2、第3の人たちが生まれていくことを期待したいです。そういうところに光が当てられるということが、地産地匠アワードの本当に素晴らしいところだなと思います。良いものを、その根っこのところからずっと続けさせること、そのものが売れていくことも含めて循環していくことが、もしかしたらこの日本の土地で可能なんじゃないか。今、その入り口にいるなと思います。最小限でも構わないから、それがぐるぐる回っていくんだよっていうところを、このアワードから見せていけるといいんだろうなってすごく思った年でした。2日間、ありがとうございました。

審査員のみなさま、一次の書類審査から最終のプレゼン審査まで、長きにわたる審査を本当にありがとうございました。2026年度のアワードも、同様の審査プロセスのもとで審査を行う予定です。このレポートのなかで議論されていた視点を、ぜひ今年度の応募にお役立ていただければと思います。