中川政七商店の「手績み手織り麻」
「手績み手織り麻」とは
苧麻や大麻を原料とする麻織物は、長きにわたり、日本人の庶民衣料として重宝されてきました。中川七商店が「手績み手織り麻」として扱うのは、主に苧麻(ラミー)、野を焼き、苧麻を育て、数カ月をかけて糸を績み、織り、晒し、染め上げ、麻の生地になるまでに、2年近くの月日がかかります。
気の遠くなるような手仕事の積み重ねですが、私たちは昔ながらの製法でしか生まれない、特別な魅力があると信じています。それは、あたたかさであり、誇りであり、味わいであり、そして自信でもあります。代々の当主が大切に受け継いできたこの麻織物には、機械では決して生み出せない、人の手だからこそ宿る価値が息づいています。
なぜ「手績み手織り麻」なのか
中川政七商店では、現在も江戸時代の奈良晒と同じ製法で生地を作っています。1疋(約24m)の生地を織るには熟練の織り子さんで10日かかります。1疋の生地に必要な糸は1.2kgで、その糸を績むのには24日かかります。それ以外にも生地ができるまでに必要な作業はたくさんあります。1疋の生地を作るには多くの人の手と多くの時間を要します。それでも私たちは昔からの製法で作られた生地にしかない良さがあると考えます。温かみであり、誇りであり、味であり、自信であります。品質の安定・効率だけを考えれば、機械で紡績された糸を使い、機械織機で織ることもひとつの選択だと思います。
しかし、私たちは10代政七が、産業革命後の西洋文明流入著しい大正・昭和の時代に、敢えて奈良晒の復興にかけた気持ちを大事にしていきたいと考えています。機械では作れない、人間の手でしか作れない大切なものがあると信じて。
「手績み手織り麻」ができるまで
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1.麻を育てる
より長く強く細い糸にできる植物に育つように、畑を耕して土地を改良していきます。最初に植えられた麻は、良いな繊維がとれないため、1~2年は使えないと言われています。
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2.麻の収穫
約2mほどに育った麻を収穫。葉ごとは抜かず、茎だけを使います。その茎の皮をはいで、皮のやわらかい部分だけを残したかたい部分をそいだら、乾燥させます。
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3.糸を績む
二本の糸を、撚りをかけてつなげることで、より長い一本の糸にしていく「績む(うむ)」と呼ばれる工程です。その後、長く一本につなげた糸を織機にかけるために、たくさんの道具をつかって整えていきます。
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4.手織り
ようやく機織りに入りますが、乾燥に弱い麻は非常に切れやすく、約2㎝の生地の完成には、糸を績むのに24日、織り上げるのに10日かかるといわれています。
※昭和前期には国内での手績み手織り麻の製造は困難となり、現在は中国で上記工程を行っています。
「手績み手織り麻」の商品
私たちは現在も、手仕事にこだわる江戸時代の奈良晒と同じ製法で、麻生地をつくり続け、商品にしています。
社内用語で「旧製麻」と呼ぶのは、麻糸・絹糸・綿糸と手で績み、手で織り上げたもの。一方「新製麻」は経糸を手績みし、緯糸を機械紡績で手織りして仕立てたものです。ここまでの工程を中国で行い、織り上がった生地は国内で晒しや染色を施して、バッグやタペストリーとして商品化されます。
いずれの工程にも人の手が介在します。丁寧な手仕事を重ねて生まれるこれらの布こそが、私たちのものづくりの原点です。
