中川政七商店が残したいものづくり #05漆器


発売から7年が経つ今もなお人気の「食洗機で洗える漆椀」。
この商品は、食洗機で洗える漆の開発に成功したからこそ生まれた商品です。
そこで、今回は株式会社漆琳堂の内田徹さんに開発時のエピソードをお聞きしました。


中川政七商店が残したいものづくり
#05 漆器「食洗機で洗える漆椀」


株式会社漆琳堂 内田 徹


大学を卒業し、実家の家業を継いで10年が過ぎようとしていた。
200年続く塗師屋に生まれ、後を継ぎ8代目になる私は毎日漆の作業をこなし、日が過ぎていった時だった。
父、祖父に漆塗りに必要な技術や理屈を教わり、おおよそ一人前の技術を身に着け、なんでも漆が塗れる、塗る速さなら誰にも負けないという意気込み、深夜12時を過ぎて塗り続けることができた、若さゆえにエネルギーに溢れるころ、食洗機椀の開発はスタートする。


2000年ころから、日本でも食洗機が一般家庭に広まり始めていた。
ある時、福井商工会議所が行っていた「クレーム博覧会」という事業に、若手メンバーの一人として参加することになった。
この「クレーム博覧会」には物やサービスに対して全国からたくさんのクレームが集積され、その意見を基に改善し新たな商品を生み出そうといった事業だったと記憶している。
はっきりとした記憶ではないが、「雨傘が強風時に反り返るのはなぜだ、何とかしてほしい」とか、「老眼鏡をかける年になったがコンパクトでセンスのいいものが市場にはない、あったら絶対買うのに。」という要望までさまざま記されていた。

そんなクレームの1つに、漆器はなぜ食洗機にいれられないのか?という内容があった。
ちょうど世の中に食洗機が普及し始めて、食洗機とはどういうものか、家庭に導入するにあたり使用方法などを細かく勉強していた人も多かったころなのかもしれない。
そのストレートな漆器に対してのクレームを見て、「いやいや漆器とは元来そういうものだ、食洗機を使いたかったらプラスチックの器を使えばいいのに。」など冷ややかな意見もあり、直ぐに開発という機運にはならなかった。

漆器は食洗機では使用できない。
業界内では周知の事実であった。なんせ天然塗料である。
漆器は英語でJAPANと呼ばれ、日本を代表する工芸品であり、海外にはない日本固有の技術でもあると自負していた。
また日本の他の伝統工芸と比べても特別な工芸品と考えていた。

果たしてそうだろうか?漆器は工芸品であって日用品である。
毎日の生活に使われて始めて日用品になることを私たちは忘れていたのかもしれない。


同じようなころ全国の国立大学が独立行政法人の見直しで業務の公共性、透明性といった観点より、より地域に根差した大学であるかを問われていた。
福井大学も同じ状況であり、私は、福井大学産学官連携本部にプロジェクトメンバーとして入会することが決まった。
越前漆器産地の中で、漆が塗ることができ、大卒の若者の後継者がいるという観点により選ばれた。
この産学官連携本部のメンバーには上場している大企業や福井県の名立たる企業も多く、そんな中で伝統工芸の会社、しかも若手職人の入会は異例であった。

何か困っていることはないか。直ぐに大学側から直球の質問がきた。
「別にありません。」
1500年続く越前漆器だ。伝統工芸に化学で研究することなどないと思い込んでいた。
あったとしても商売ベースになることはないと全く期待もしていなかった。
その後も何度も連絡があった。
そして何度も「別に。」は続いた。
今思えば定期的に連絡をくれていたのかもしれない。

何度目かの連絡で、
「あ、そうだ。漆って食洗機にかけれないのですが、何とかなりませんかね?」
担当の准教授から
「おーーー。内田さん、それは課題を見つけましたね。」
課題を見つけてうれしそうな声を今でも覚えている。


複数の偶然が重なり、食洗機で洗える漆椀の開発はスタートする。
大学では無駄とは言わないが、漆の酵素であるラッカーゼの研究や、電子線との併合した研究、漆に特質基材を混合する研究、などたくさん行った。
その度に、本業の漆塗りができず作業がストップするため、大学に行きたくないことも多々あった。
それでも先生が待っていると思うと休まずに通い続けた。

産学官というからには福井県にも協力を得ることができた。
福井県には他県にあまりない福井県工業技術センター(工技センター)という、県内産業の諸所研究を扱う出先機関が存在する。
研究とは課題における実験を一つずつ卒なくこなす、という教えも、工技センターの漆担当・研究者の渡邊さんに教わった。
研究は答えが明確に出ているものではないのでまるで霧の中にいるようにも感じた。
福井大学との研究はいろんな可能性を見出そうと思いもよらない方向に向き、無謀なことだったのかと諦めを感じたこともあったが、軌道修正してくれたのも工技センターの渡邊さんだった。
どこまでのスペックを求め、どれくらいの費用で出来るのがベストなのか、など具体的に指標を示してくれた。

多少の回り道もしたが、3年ほどの歳月を費やし、産学官(漆琳堂×福井大学×福井県)で食洗機に耐えうる漆器を開発することができた。
前段で記した通り、当初は商品化しても、格安で耐熱プラスチックの器や陶磁器があるのですぐに広がるとは思っていなかった。


漆器を日常食器で使ってほしい。
普段の生活に何気なく存在する器であってほしい。
そんな想いで開発した食洗機で洗える漆椀は、機能性をもっているという観点から現在人気を博している。
社会で活躍する女性が増え、家事をささえる男性が増えているのも要因と考えらえる。
今後も家庭にふつうに漆器が存在するように頑張って漆を塗っていきたいと思っている。
 
商品名:食洗機で洗える漆椀
工芸:漆器
産地:福井県鯖江市
一緒にものづくりした産地のメーカー:株式会社漆琳堂

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本連載は、中川政七商店 渋谷店の企画展「中川政七商店が残したいものづくり」に連動し全7回にわたって配信いたしました。
原稿はすべて、作り手たちが自分の言葉で記したものです。

渋谷店の企画展では、「ものづくりの途中」をテーマに、構想段階のデザイナースケッチから試作品、産地での製造風景真など、商品が生まれるプロセスを一挙に展示しています。
全国そこかしこの工場で、工房で、小さな部品にさえ施される丁寧な仕事と作り手の静かな誇り。 わたしたちが日々向き合うものづくりの過程で感じたこと、知ったこと、こう考えて、こんな方たちとつくったんですということ。
わたしたちのものづくりをお伝えいたします。
会期は12月3日(火)まで。ぜひ遊びにいらしてください。
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