デザイナーが話したくなる「保存の器」


きっかけは「わがままな思い」とデザイナーの渡瀬さん。
そもそも男性がこういうものが欲しいなと思いついたことが不思議でした。

男性がひとり暮らしで、余った食事をタッパーで保存すると、翌日お皿に移すと洗い物が増えるのが手間だということで、そのままタッパーからたべてしまうことがしばしば。
なかなか、ワイルドな、、、
しかし、本人もそれはそれでなんだか横着をしている後ろめたさと、きちんと食事をとっている感じがしないと思っていたみたいです。

そこで、食器として使えるタッパーがあったらそれが一番なのに!と思いついたんです。
ずぼらながらも食卓を充実させたい我儘な思いから、焼き物でつくる「食器としても使える保存容器」の開発が始まりました。


保存容器として、よく見かけるのは、まずプラスチック製のもの、そして琺瑯や陶磁器のもの。
陶磁器なら渡瀬さんが想像しているものに近いのではと思ったのですが、ここで「中川政七商店らしい」暮らしに馴染むデザインをしたいという渡瀬さんのこだわりが。陶磁器のものは、蓋がプラスチックのものが多いのですが、蓋も容器と同じ素材で作ることにしました。


そこで高い気密性を実現するため、選んだ産地は有田。素材には通気・吸水性が少ない磁器を用い、有田有数の成形精度を持つ生地メーカーにて「共焼き」という技術を用いて焼成しました。
急須の製造等で使われる共焼きは、蓋と身を合わせた状態で焼き上げることで、焼成時に発生する土の収縮差を抑えることで、隙間を限りなく小さくすることができます。
実際蓋をしてみると、ピタッと気持ちよくはまります。


共焼を行う場合、身と蓋の接地面の釉薬を剥ぐ必要があります。そのために行うのが蝋引き。蝋を塗ったところは釉薬が弾くことで重ねて焼いても身と蓋が付きません。蝋は筆でのせる為、分厚く塗ると蓋が入らなくなる恐れがある為、神経を使う作業です。


食器として使い、蓋をして冷蔵庫または冷凍庫で保存。翌日にそのまま電子レンジで温め直して、また食卓へ。食器と保存容器の両役を果たしてくれる器は、沢山の容量がありつつ、食卓で馴染む雰囲気にするため、鉢(どら鉢とも呼ばれる)の形に近づけました。
蓋にはリムを設けることで、取り皿として使うこともできるんです。


「日頃、いろいろな産地を巡ってと様々な発見があります。」と感慨深い渡瀬さん。
「共焼き」の事を知ったのは、実は萬古焼。急須を作る窯元で、身と蓋を合わせるためには、結構な手間や技術があることを知りました。
一方、お茶産地に伺ったときには、実は気密性の高い磁器急須が、匂いもつきにくく本来の茶の味を味わうのに適しているので好んで使っていると話を聞きました。
それらの見聞を組み合わせると、今回の保存の器は、気密性を高める共焼と磁器材を用いるのが良いのではと結びつきました。匂い移りも少ないはず。磁器は昔は高級素材で、保存容器としては使われてきませんでしたが、後世になると醤油瓶や酒瓶など保存も兼ねた容器としても活用されるようになります。

私達の仕事は、生活者としての肌感と産地の知恵を結びつけて、今の生活に活躍する道具をつくることです。とは言え、絵に描いた餅を実現するのはいつも大変で、今回も何度も試作を繰り返して完成しました。
おかげさまでタッパーで食事をすることもなく満足しています。最後は、とても満足気な笑顔でした。

 

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