ことつて#03 漁師のおもりで作った歯ブラシスタンド

こんな風に考えてつくりました

気が付いたら週3で着てしまうカットソー、食器棚の中でついつい手が伸びる飾り気のないうつわ、刃こぼれしたら何度でも研いで使う手に馴染んだ包丁。
毎日自然と手が伸びてしまう物、ずっと使い続けたい物ってどういう物だろう。一過性のお気に入りではなくて、一緒に日々を重ねていく相棒のような道具。
歴史を積み重ねて培った工芸のたしかな技術。それらを現代の暮らしに心地いい形で、使う人の元に届けられたら・・・

この記事は、私たちの「こんな風に考えてつくりました」を近くでそっとお伝えするような、そんな気持ちでお届けする中川政七商店からの「ことつて」です。

漁師のおもりが歯ブラシスタンドに生まれ変わりました

デザイナーの榎本さん
デザイナーの榎本さん

海で使う漁師のおもりと家で使う歯ブラシスタンド。全然関係ないように思えて、好奇心をくすぐられるこの商品、デザイナーの榎本さんに開発のきっかけを聞いてみました。

「社内で雑談をしていた時に、骨董市で購入した陶器でできた漁師のおもりが面白いという話になって。初めて見たときは、何だか分からないけれど形や質感に強く惹きつけられる魅力を感じました。その時は骨董市で売られるくらいなのでまさか今でも作っている人がいるとはまったく思わなくて。」

ちょうどその頃、歯ブラシスタンドを作りたいと考えていた榎本さん。

「歯ブラシスタンドにちょうどいい形だなあ、と思って。もっと漁師のおもりのことを知りたいと詳しく調べてみたら、今でも作っているところがあったんです!」

手にしているのは、開発のきっかけとなった実際の漁師のおもり
手にしているのは、開発のきっかけとなった実際の漁師のおもり

「窯元さんに話を聞いてみたら、狙い通り素材の特性としても水回りで使うものにぴったりでした。ただ、使い手である漁師さんの数が減少し、おもりの注文も年々少なくなってきているので、生産を続けていくのが厳しい、という話も聞いたんです。」

歯ブラシスタンドのように、別の商品に転用することで使い手が増えたら、陶器のおもりを残していくことにも繋がるのではないかと感じた榎本さん。本格的に商品化に踏み切りました。

高田焼のマル信製陶所さんと作った水回りにぴったりの道具

高田焼の窯元「マル信製陶所」の加藤さんご夫婦
高田焼の窯元「マル信製陶所」の加藤さんご夫婦

今回一緒にものづくりをしたのは、岐阜県多治見市で作陶されているマル信製陶所さん。大正時代から続く窯元で、現在5代目となる加藤信之さんが奥さまと2人で窯を切り盛りされています。
最盛期は全国から注文がきて、毎日のように集荷のトラックが来るほど必要とされた漁師のおもりですが、今では現役で作り続けている高田焼の窯元は3か所のみとなりました。

原料となる高田焼の土
原料となる高田焼の土

高田焼の魅力は、青土(あおと)と呼ばれる土にあります。きめが細かく粘りのある土で、焼きあがると強度が高く吸水性がほとんどなくなるのが特徴です。
吸水性がないことで、かびづらく匂いもしないので衛生的。高田焼の土は水回りで使う道具にぴったりの素材なのです。

そうは言っても、陶器は割れ物。丁寧に扱うイメージがあるので、漁師のおもりと聞くと少し信じられないような気もして、千葉で30年以上底引き網漁に携わる漁師さんを訪ねました。

実際に使われている様子。手に持っている部分は最近つけかえたので新しい
実際に使われている様子。手に持っている部分は最近つけかえたので新しい

そもそもなぜ陶器のおもりを使っているのか聞いてみると、底引き網漁では、陶器のおもりをベースとして使い、必要に応じて鉛を追加して重さを調整しているのだそうです。鉛のおもりだけだと重すぎて船で引けないんだとか。だから陶器のおもりは漁師さんにとって必要不可欠。

理由は分かったけれど、すぐに割れてしまわないのかが気になるところ。
海でがしがし使うのに陶器のおもりなんて割れてすぐにだめになりそうなものですが、なんと10年 に1回程度の取り替えで済んでいるのだそうです。

真空土練機から土が出てくる様子
真空土練機から土が出てくる様子

漁にも耐えられる、ぎゅっと焼締まった塊の陶器を作るために必要なのが、真空土練機。その名の通り土を真空にする機材です。これによって密度の高い状態となり土の特性が引き出され、丈夫なおもりを作ることができます。

手づくりしたオリジナルの道具で削って形を作る
手づくりしたオリジナルの道具で削って形を作る

そして、何とも言えないほっとするラインを作り出す削りの道具は、すべて手づくりで揃えたと言います。角はロープの引っ掛かりをなくす為に、1つ1つ削って面取りするという、とても丁寧な手仕事。
漁師のおもりとして人の目に触れない海中で使われるものだけれど、それが手を抜く理由にはならないから、と長く使い続けられるように手間ひまかけて作られているのです。
だからこそ、作り方はほとんどそのままに、家で使う歯ブラシスタンドとして転用することができました。

暮らしをつくる理にかなった歯ブラシスタンド

水回りに溶け込む暮らしの道具に生まれ変わりました。
水回りに溶け込む暮らしの道具に生まれ変わりました。

漁師の道具として研ぎ澄まされてきた陶器のおもり。その素材がもつ特性をいかして用途を転用した、歯ブラシスタンドが完成しました。
漁師のおもりとして耐久性も耐水性もお墨付きの理にかなった水回りの道具です。
小さくて場所を取らないのにしっかりと重みもあって、歯ブラシが倒れる心配もありません。子ども用の少し柄が太めな歯ブラシも入れられつつ、大人用の歯ブラシが斜めになりすぎないよう穴のサイズを調整して作っているので、家族で揃えられるのも嬉しいポイントです。

左から海鼠、飴、黄瀬戸、粉引の4色。
左から海鼠、飴、黄瀬戸、粉引の4色。

さらにおもりを歯ブラシスタンドとして生活に取り入れてもらうためのもう一工夫として色にもこだわったという榎本さん。
漁師のおもりは飴色という茶色1色のみ。昔からこの色を使っているからと、その理由を尋ねても明確な理由は分からなかったと言います。そこで、今回のシリーズでは元々の飴色も大切に活かしつつ合わせて使えるように、日本の焼き物に伝統的に使われてきた釉薬の中でも特徴のあるものを使用しました。

「日本の釉薬は土の質感を活かすのが特徴で、シンプルだけど控え目な奥行があって美しいんです。でも、どれも普段おもりには使わない釉薬なので、焼いたときの土との相性がうまくいかずヒビが入るなど、問題も発生しました。そこから加藤さんに具体的な釉薬の調整や焼き方を試行錯誤していただいた結果、思い描いた水回りに溶け込む落ち着いた色バリエーションに仕上がりました。」

水回りの印象を揃える同じシリーズの石鹸置きも
水回りの印象を揃える同じシリーズの石鹸置きも

水回りを統一したい方のために、同じシリーズとして石鹸置きも作りました。
石鹸置きは中心の穴に向かって角度があり水が流れやすい設計に。裏側には丁寧に彫り込まれた水を排出する溝があり、漁師のおもりで培われた職人技が光ります。 歯ブラシスタンドと同じ色バリエーションです。

歯ブラシスタンド(左)と実際に5年以上使われていたおもり(右)
歯ブラシスタンド(左)と実際に5年以上使われていたおもり(右)

歯ブラシスタンドと漁師のおもりを並べてみると、サイズや色は違うけれど形はほとんど同じ仕上がりに。形が同じだから、おもりを作るときとほぼ同じ道具で作ることができたのだそうです。

漁師さんを訪ねた時には、こんなことも。
「親の代からずっと使ってきたもので、何個、どんな風に網につければ漁がうまくいく、という経験が蓄積されてるから、このおもりが無くなると本当に困るよ。」

漁師さんにとっては当たり前のようにある、必要不可欠な道具。
使う場所も用途も全然違うけれど、沢山の人の暮らしの中で当たり前のように使われることで、陶器のおもりが次の世代にも渡っていく未来を作りたい。そんな思いで作った、小さいけれどぎゅっと背景を語れる歯ブラシスタンド。暮らしをつくる一員に加えてみてはいかがでしょうか。

ことつて冬
『ことつて』は全国直営店の店頭でも冊子でお配りしています。店頭でお配りしている冊子は年4回発行し、シーズンごとの様々な商品をご紹介しています。こちらの記事は、2019年3月6日発行の『ことつて 春号』の中で紹介される商品の1つをとりあげ、ものづくりの裏側をじっくりご紹介した読み物です。

こと-つて [意味]
伝えたい言葉を取り次いでもらうこと。
また、その言葉。伝言。ことづけ。

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